ペット

第1回 住まいの設計者が考察:集合住宅のペット騒音対策

記事を書いた人

  1. 都心で住まいの設計事務所を主宰して三十数年
  2. ここだけの話、実は犬が嫌い(ちょっと、トラウマが……)
  3. 最近、友人がペットロスで項垂れている

第1章:導入と「犬嫌い」からの考察開始

都心で設計事務所を主宰して三十数年。
家という居場所を作るプロとして、私は長らく「ペット」というテーマから距離を置いてきました
正直に言えば、犬が少し苦手だったからです。
しかし、ある友人の家を訪れたとき、彼らがペットを単なる動物ではなく、その人生の「空間」を共有する家族として扱う姿に心を動かされました
本当に子供を育てるように、本当に人と接するように、彼らは同じ空間で同じ時間を生きていました。

この連載は、そんな私のような、ペットと暮らしていない建築家だからこそ言える、極めて客観的で、時にドライな「都市生活とペットの共存」についての考察です。
第1回目のテーマは、集合住宅における永遠の課題、「音」の問題から始めましょう。

第2章:音の「不協和音」を生む都市建築

集合住宅におけるペットの鳴き声や足音は、時に住民トラブルの火種となります。
ペットでなくとも、人の日常生活が十分に火種です。
これは、日常生活の仕方や飼い主のモラルだけでなく、私たちが住む「箱」の構造そのものが原因であることが多いのです。
特に都心の築年数が経過したマンションや軽量鉄骨造のアパートでは顕著です。

犬の鳴き声は、低周波から高周波まで広範囲に及び、単なる「遮音」だけでは完全に防げません。
壁や床が揺れを伝えやすい構造だと、音は固体振動として隣戸や階下に響いてしまいます。
人間の話し声は気にしなくても、動物の音は「生活音」の枠を超えて「ストレス」になりやすいのは、音の種類に加え、住人が無意識に感じる「動物を飼っていることへの警戒心」が背景にあるからです。

また、早朝の散歩前の興奮や、深夜の「猫の運動会」の足音も深刻です。
床の衝撃音に対する対策は、本来、建物の設計時に行うべきものですが、後付けでどこまで効果を出せるのか。
この構造的な不協和音を理解することが、円満な共存への第一歩です。

第3章:設計者が選ぶ「音対策」の建材・アイテム

構造を変えられない既築の集合住宅で私たちができることは、主に「吸音」と「遮音」の適切な組み合わせです。

まず、床の足音対策で最も効果的なのは、重量床衝撃音にも対応した高性能な防音フローリングや、厚手の防音マットです。
ただし、単に厚ければ良いわけではありません。
重要なのは、硬い床材の間に弾力性のある層(緩衝材)を挟み込み、振動を吸収する「設計思想」です。

次に鳴き声のような空気伝搬音対策です。
壁や窓の遮音性能を上げるのが理想ですが、現実的なのは遮音カーテンや吸音パネルの活用です。
吸音材は部屋の中で反響する音を減らし、音量を相対的に下げる効果があります。
設計者として見ると、市販の防音ケージは非常に合理的ですが、閉鎖的でペットの心理的な負担になりやすいのが難点です。難点ですが、その方向の解決は有効です。
閉じ込めるようで気が引けなくはないですが、対策です。
そこで私は、家具の一部に吸音材を組み込むDIYや、ペットの空間をウォークインクローゼットなどの遮音性の高い部屋に併設する間取りの工夫をお勧めします。
コストをかけるべきは、音を発生させない環境と、音を遮る出入り口(ドア)です。

第4章:物理的な解決を超えた「住人同士の設計」

 高性能な建材やガジェットを駆使しても、音の問題は「感情」が絡むためゼロにはなりません。最終的に必要なのは、「住人同士の関係性の設計」です。
建築は物理的な箱を提供しますが、その中で営まれる生活はソフトの問題です。ペットを飼っている旨を事前に伝え、万が一音が漏れた際の連絡手段を共有する。
これは、マンション管理規約という「制度設計」を守る以上に、「人間関係の設計」として重要です。
物理的な壁を厚くすることも大切ですが、心の壁を低くすることこそが、都市という複雑な環境の中で、ペットと飼い主が安心して暮らすための最も合理的で、そして最も美しい設計思想ではないでしょうか。
設計においては、常に短期中期長期のそれぞれの時間帯に気を配ります。
今日一日、今週一週間、今月、今年、これからの3年5年10年、そして例えばローンの終わる35年。
いかにその家族と出会い、共に成長し、旅立つのか。

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